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2023/11/6より、 先物・オプション取引の証拠金額の計算方法がSPAN方式からVaR方式へ変更となりました。 ここでは新計算方法であるVaR方式についてご説明致します。

VaR方式の概要

  1. VaRは「Value at Risk」の略で、「バー」と読みます。
  2. VaR方式にはHS-VaR方式とAS-VaR方式がありますが、先物・オプション取引はHS-VaR方式です。
  3. HS-VaR方式は、ヒストリカルシナリオとストレス日ベースシナリオを組み合わせで計算されます。
  4. ヒストリカルシナリオでは、過去1250個(5年)のリターンを計算し、EWMA(ExponentiallyWeighted Moving Average Method)によるボラティリティ調整により足元の変動を生成。
  5. ストレス日ベースシナリオでは、2008年以降のデータから各サイロごとに設定したストレス日におけるリターンから生成。
  6. 各銘柄につき生成したシナリオ損益をポートフォリオ単位に足しあげたあと、損失上位のシナリオ損益からVaR証拠金額を計算。

日本証券クリアリング機構(JSCC)のサイトにあるVaR方式の概要を要約すると上記の内容になりますが、 これでは何のことことやら、さっぱりです。 以下ではもう少し分かり易い様にHS-VaR方式の実態に迫って見たいと思います。

主な変更点

主な変更点を表にしましたので、ご覧ください。

変更点 SPAN方式 HS-VaR方式
売りと買いの証拠金額の違い売りと買いで同じ金額 売りと買いで異なる金額
限月ごとの証拠金額の違い どの限月も同じ金額 限月により異なる金額
証拠金の更新・公表頻度 毎週最終営業日18時頃 毎営業日15時45分~16時頃
証拠金の適用タイミング 翌週の日中立会終了後より公表当日の日中立会終了後より

これでも、まだ分かり難いのですが、JSCCのサイトに動画があり、 大阪証券取引所の方が解説しています。その内容を要約すると以下様になります。

  1. SPAN方式とHS-VaR方式では、証拠金額は大きく違わない。
  2. しかし、動画のグラフを見る限り、HS-VaR方式の方が概ね証拠金額は高い。
  3. リスクを相殺するような複数のポジションがある場合には、SPAN方式よりHS-VaR方式の方が証拠金額が低い。
  4. 更新時期がSPAN方式は週次なので、急に証拠金額が大きくなることがあったが、HS-VaR方式は日次なので、日々の変動は少ない。

更に、上記変更点から分かることは、追加証拠金の判定は16時頃に行われるということと、 ナイト・セッションの証拠金は更新された証拠金になるということです。

これでもまだ、今一つピンと来ないので、更に以下をご覧ください。

通常時の証拠金額

通常時とはボラティリティが高からず、低からず、また相場水準も高からず、 低からずの状態のことです。相場水準の判定をどうするかという問題がありますが、 ここでは25日移動平均に対する乖離率で判定することにします。

      2024/04/30 16:00
      日経平均株価 終値:38,405.66円
      日経225 2024/6限:38,470円
      25日移動平均:39,018.36円(日経平均)
      乖離率:-1.57%(日経平均)
      日経平均VI:20.47%
      レバレッジ(2024/6限):買い18.25倍 売り19.08倍

以下は楽天証券の証拠金額です。因みに掛け目は1.0倍でした。

日経225先物(ラージ)
限月 買いの証拠金額売りの証拠金額
2024/6限 2,107,796円 2,016,039円
2024/9限 2,097,285円 2,012,109円
2024/12限2,099,937円 2,006,454円
2025/3限 2,101,534円 2,006,901円
2025/6限 2,092,908円 1,995,943円

日経225mini
限月 買いの証拠金額売りの証拠金額
2024/6限 210,780円 201,604円
2024/9限 209,729円 201,211円
2024/12限209,994円 200,646円
2025/3限 210,154円 200,691円
2025/6限 209,291円 199,595円

日経225マイクロ
限月 買いの証拠金額売りの証拠金額
2024/6限 21,078円 20,161円
2025/9限 20,973円 20,122円

上記Dataから類推できることは以下の点です。

  1. 買いの証拠金額は売りの証拠金額より4~5%高い。
  2. 期近より期先の方が、やや安い傾向がある。
  3. ラージ、ミニ、マイクロの関係はほぼ1/10ずつになっているが、基本端数は切上げている。

買いが売りより高いのは恐らく、概要にあるストレス日ベースシナリオによるリーマン・ ショックやコロナ・ショックの影響だと思います。

更に、翌日5/1のDataもご覧ください。

      2024/05/01 16:00
      日経平均株価 終値:38274.05円
      日経225 2024/6限:38210円
      前日比:-0.676%(日経225先物)
      25日移動平均:38933.40円(日経平均)
      乖離率:-1.69%(日経平均)
      日経平均VI:20.66%
      レバレッジ(2024/6限):買い18.42倍 売り19.25倍

日経225先物(ラージ)
限月 買いの証拠金額売りの証拠金額
2024/6限 2,073,962円 1,985,176円

4/30と5/1の1日の変化では、2024/6限が-0.676%低下しています。 これに対し、買いの証拠金額は-1.605%、売りの証拠金額は-1.531%の低下でした。 日経平均VIは僅かに上昇していますが、この場合証拠金額に与える影響は、 軽微であると想定できます。先物価格に対する感応度は買いが2.37倍、 売りが2.26倍でかなり大きいという印象です。同じ比率で変化する筈はありませんが、 先物価格が2%以上は変化すると、証拠金額は5%位変化すると想定していた方がよいと思います。



以上のことで、大分HS-VaR方式のイメージは掴めたかと思います。 後は、低ボラティリティ時(日経平均VIが15%以下)、高ボラティリティ時(日経平均VIが40%以上)、 相場水準が低い時(乖離率が-10%以下)、相場水準が高い時(乖離率が10%以上)のDataがあれば、 かなりの部分が分かると思います。そういう状況があれば、Dataを追加していきます。



暴落時の証拠金額

2024/8/2(金)に日経平均は-2216円、8/5(月)には-4451円という下げを記録しました。 元々、7/11に42,224.02円という高値を付け、上昇が急だったため、反落後、米国の景気指標の悪化受け、 米国株の下げに追従して下降トレンドに入っていたところ、7/31に日銀の予想外の利上げ、 そして植田総裁の今後も利上げが続くとの含みに市場が恐れおののいた瞬間でした。

翌日8/6には3217円の反騰。この時のDataを時系列でご覧ください。


日付日経平均終値9限終値乖離率日経平均VI買いの証拠金額売りの証拠金額
8/02 35,909.70円35,920円-10.93%29.44%2,581,662円 2,409,937円
8/05 31,458.42円31,380円-25.60%70.69%3,415,847円 3,099,042円
8/06 34,675.46円34,240円-13.37%51.19%3,734,473円 3,365,176円
8/07 35,089.62円35,070円-11.47%45.02%4,053,259円 3,720,799円
8/08 34,831.15円34,780円-11.63%46.62%3,945,368円 3,615,783円
8/09 35,025.00円35,050円-10.34%45.28%3,896,422円 3,566,742円
8/13 36,232.51円36,220円 -6.15%35.20%3,990,288円 3,655,783円
8/14 36,442.43円36,380円 -5.06%31.32%3,967,093円 3,630,032円
8/15 36,726.64円36,650円 -3.72%27.25%3,921,342円 3,582,269円
8/16 38,062.67円38,090円 0.32%26.54%4,060,320円 3,697,508円
8/19 37,388.62円37,170円 -0.96%29.52%3,899,425円 3,526,933円
8/20 38,062.92円38,080円 1.16%27.61%3,915,815円 3,538,659円
8/21 37,951.80円37,970円 1.22%27.05%3,843,547円 3,470,352円
8/22 38,211.01円38,230円 2.19%27.13%3,796,071円 3,424,282円
8/23 38,364.27円38,410円 2.76%25.38%3,742,269円 3,383,866円

※1 乖離率は日経平均株価の25日移動平均線に対する日経平均株価の乖離率です。
※2 8/12は「山の日」の振替休日で、現物先物ともに休場です。
※3 楽天証券の掛け目は全て1.0倍です。


上記Dataを調べると、興味深いことが分かります。 非常に意外だったのは、8/5の証拠金です。8/2に比べ、日経平均VIが29.44%から70.69%と倍以上上がっているのに、 証拠金の上昇幅は売り買い共に100万円以下です。勿論、価格水準が下がっているのが、 ボラティリティの上昇と相殺されているのでしょうが…
もう一つ解せない点があります。 8/23の価格水準は5/1と同水準で、日経平均VIは25.38%と20.66%です。日経平均VIの差が5%未満なのに、 証拠金額は買いの場合で、3,742,269円と2,073,962円です。

以上2つの点を推察すると、HS-VaR方式の証拠金は直近の過去Dataをある程度引き摺っていると思われます。 もしかしたら、ボラティリティはインプライド・ボラティリティを使わず、ヒストリカル・ボラティリティを使っているかもしれません。



HS-VaR方式証拠金の特徴

以上のことを踏まえ、且つ証拠金の基本的な性質を含めてまとめると以下のようになります。

  1. 相場水準が高ければ高い程、証拠金額も高くなる(基本)
  2. ボラティリティが高ければ高い程、証拠金額も高くなる(基本)
  3. 単純な先物のポジションだとSPAN方式より高い
  4. 通常時においては、買いの証拠金額は売りの証拠金額より4~5%高い
  5. 日経平均VIが約30%時においては、買いの証拠金額は売りの証拠金額より7~8%高い
  6. ボラティリティが高ければ高い程、買いの証拠金額は売りの証拠金額より高くなる傾向がある
  7. 暴落すると、価格水準は下がるが、ボラティリティが急上昇するので、証拠金額はかなり高くなる
  8. 期近より期先の方が、やや安い傾向がある
  9. ラージ、ミニ、マイクロの関係はほぼ1/10ずつになっている
  10. 先物価格が2%以上は変化すると、証拠金額は5%位変化する可能性がある
  11. 追加証拠金の判定は16時頃に行われる
  12. ナイト・セッションの証拠金は更新された証拠金になる
  13. 祝日取引の日では、証拠金は更新されない
  14. 未確認ですが、直近の過去Dataをある程度引き摺っている

尚、上記例では楽天証券の掛け目は1.0倍でしたが、相場急変時には1.1や1.2にUPされる 可能性があることをお忘れなく。




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