2023/11/6より、 先物・オプション取引の証拠金額の計算方法がSPAN方式からVaR方式へ変更となりました。 ここでは新計算方法であるVaR方式についてご説明致します。
日本証券クリアリング機構(JSCC)のサイトにあるVaR方式の概要を要約すると上記の内容になりますが、 これでは何のことことやら、さっぱりです。 以下ではもう少し分かり易い様にHS-VaR方式の実態に迫って見たいと思います。
主な変更点を表にしましたので、ご覧ください。
変更点 | SPAN方式 | HS-VaR方式 |
売りと買いの証拠金額の違い | 売りと買いで同じ金額 | 売りと買いで異なる金額 |
限月ごとの証拠金額の違い | どの限月も同じ金額 | 限月により異なる金額 |
証拠金の更新・公表頻度 | 毎週最終営業日18時頃 | 毎営業日15時45分~16時頃 |
証拠金の適用タイミング | 翌週の日中立会終了後より | 公表当日の日中立会終了後より |
これでも、まだ分かり難いのですが、JSCCのサイトに動画があり、 大阪証券取引所の方が解説しています。その内容を要約すると以下様になります。
更に、上記変更点から分かることは、追加証拠金の判定は16時頃に行われるということと、 ナイト・セッションの証拠金は更新された証拠金になるということです。
これでもまだ、今一つピンと来ないので、更に以下をご覧ください。
通常時とはボラティリティが高からず、低からず、また相場水準も高からず、 低からずの状態のことです。相場水準の判定をどうするかという問題がありますが、 ここでは25日移動平均に対する乖離率で判定することにします。
2024/04/30 16:00以下は楽天証券の証拠金額です。因みに掛け目は1.0倍でした。
限月 | 買いの証拠金額 | 売りの証拠金額 |
2024/6限 | 2,107,796円 | 2,016,039円 |
2024/9限 | 2,097,285円 | 2,012,109円 |
2024/12限 | 2,099,937円 | 2,006,454円 |
2025/3限 | 2,101,534円 | 2,006,901円 |
2025/6限 | 2,092,908円 | 1,995,943円 |
限月 | 買いの証拠金額 | 売りの証拠金額 |
2024/6限 | 210,780円 | 201,604円 |
2024/9限 | 209,729円 | 201,211円 |
2024/12限 | 209,994円 | 200,646円 |
2025/3限 | 210,154円 | 200,691円 |
2025/6限 | 209,291円 | 199,595円 |
限月 | 買いの証拠金額 | 売りの証拠金額 |
2024/6限 | 21,078円 | 20,161円 |
2025/9限 | 20,973円 | 20,122円 |
上記Dataから類推できることは以下の点です。
買いが売りより高いのは恐らく、概要にあるストレス日ベースシナリオによるリーマン・ ショックやコロナ・ショックの影響だと思います。
更に、翌日5/1のDataもご覧ください。
2024/05/01 16:00限月 | 買いの証拠金額 | 売りの証拠金額 |
2024/6限 | 2,073,962円 | 1,985,176円 |
4/30と5/1の1日の変化では、2024/6限が-0.676%低下しています。 これに対し、買いの証拠金額は-1.605%、売りの証拠金額は-1.531%の低下でした。 日経平均VIは僅かに上昇していますが、この場合証拠金額に与える影響は、 軽微であると想定できます。先物価格に対する感応度は買いが2.37倍、 売りが2.26倍でかなり大きいという印象です。同じ比率で変化する筈はありませんが、 先物価格が2%以上は変化すると、証拠金額は5%位変化すると想定していた方がよいと思います。
以上のことで、大分HS-VaR方式のイメージは掴めたかと思います。 後は、低ボラティリティ時(日経平均VIが15%以下)、高ボラティリティ時(日経平均VIが40%以上)、 相場水準が低い時(乖離率が-10%以下)、相場水準が高い時(乖離率が10%以上)のDataがあれば、 かなりの部分が分かると思います。そういう状況があれば、Dataを追加していきます。
2024/8/2(金)に日経平均は-2216円、8/5(月)には-4451円という下げを記録しました。 元々、7/11に42,224.02円という高値を付け、上昇が急だったため、反落後、米国の景気指標の悪化受け、 米国株の下げに追従して下降トレンドに入っていたところ、7/31に日銀の予想外の利上げ、 そして植田総裁の今後も利上げが続くとの含みに市場が恐れおののいた瞬間でした。
翌日8/6には3217円の反騰。この時のDataを時系列でご覧ください。
日付 | 日経平均終値 | 9限終値 | 乖離率 | 日経平均VI | 買いの証拠金額 | 売りの証拠金額 |
8/02 | 35,909.70円 | 35,920円 | -10.93% | 29.44% | 2,581,662円 | 2,409,937円 |
8/05 | 31,458.42円 | 31,380円 | -25.60% | 70.69% | 3,415,847円 | 3,099,042円 |
8/06 | 34,675.46円 | 34,240円 | -13.37% | 51.19% | 3,734,473円 | 3,365,176円 |
8/07 | 35,089.62円 | 35,070円 | -11.47% | 45.02% | 4,053,259円 | 3,720,799円 |
8/08 | 34,831.15円 | 34,780円 | -11.63% | 46.62% | 3,945,368円 | 3,615,783円 |
8/09 | 35,025.00円 | 35,050円 | -10.34% | 45.28% | 3,896,422円 | 3,566,742円 |
8/13 | 36,232.51円 | 36,220円 | -6.15% | 35.20% | 3,990,288円 | 3,655,783円 |
8/14 | 36,442.43円 | 36,380円 | -5.06% | 31.32% | 3,967,093円 | 3,630,032円 |
8/15 | 36,726.64円 | 36,650円 | -3.72% | 27.25% | 3,921,342円 | 3,582,269円 |
8/16 | 38,062.67円 | 38,090円 | 0.32% | 26.54% | 4,060,320円 | 3,697,508円 |
8/19 | 37,388.62円 | 37,170円 | -0.96% | 29.52% | 3,899,425円 | 3,526,933円 |
8/20 | 38,062.92円 | 38,080円 | 1.16% | 27.61% | 3,915,815円 | 3,538,659円 |
8/21 | 37,951.80円 | 37,970円 | 1.22% | 27.05% | 3,843,547円 | 3,470,352円 |
8/22 | 38,211.01円 | 38,230円 | 2.19% | 27.13% | 3,796,071円 | 3,424,282円 |
8/23 | 38,364.27円 | 38,410円 | 2.76% | 25.38% | 3,742,269円 | 3,383,866円 |
※1 乖離率は日経平均株価の25日移動平均線に対する日経平均株価の乖離率です。
※2 8/12は「山の日」の振替休日で、現物先物ともに休場です。
※3 楽天証券の掛け目は全て1.0倍です。
上記Dataを調べると、興味深いことが分かります。
非常に意外だったのは、8/5の証拠金です。8/2に比べ、日経平均VIが29.44%から70.69%と倍以上上がっているのに、
証拠金の上昇幅は売り買い共に100万円以下です。勿論、価格水準が下がっているのが、
ボラティリティの上昇と相殺されているのでしょうが…
もう一つ解せない点があります。
8/23の価格水準は5/1と同水準で、日経平均VIは25.38%と20.66%です。日経平均VIの差が5%未満なのに、
証拠金額は買いの場合で、3,742,269円と2,073,962円です。
以上2つの点を推察すると、HS-VaR方式の証拠金は直近の過去Dataをある程度引き摺っていると思われます。 もしかしたら、ボラティリティはインプライド・ボラティリティを使わず、ヒストリカル・ボラティリティを使っているかもしれません。
以上のことを踏まえ、且つ証拠金の基本的な性質を含めてまとめると以下のようになります。
尚、上記例では楽天証券の掛け目は1.0倍でしたが、相場急変時には1.1や1.2にUPされる 可能性があることをお忘れなく。