アノマリー(anomaly)

システム運用投資顧問 TOPアノマリー(anomaly)


アノマリーとは、日本語に訳すと「異常」ということになりますが、相場の世界では、 はっきりとした論理的な根拠はないものの、構造的要因等によって経験的にそうなること が多いことを意味します。



米国株のアノマリー


Sell in May

正しくは、「Sell in May, and go away. Don’t come back until St Leger day.」 となり、意味は「5月に売って、どこかへ行き、セント・レジャー・デイ(9月第2土曜日)ま では相場に戻って来るな」ということです。つまり5~9月の株式相場は低調であるという ことです。ネット検索すると、これを真面目に検証した例が幾つかありました。 そして、 その結果は格言通りでした。何故、そうなるのか? ややこじ付け気味ですが、4~5月に 株主総会があり、その後多くの株主が長期休暇を取り、9月に子供の新学期が始まるので戻 って来るから、5~9月が低調に成り易いという説明がありました。 理由はともあれ、無視 しない方がいいアノマリーです。


米国株にとって10月は鬼門?

上記アノマリーの検証では、10月のパフォーマンスは平均的にはいいと出ていました。 ですが、以下のDataをご覧ください。

NYdowの下落率ランキング
順位DATE 下落率 備考
11987/10/19▲22.61%ブラック・マンデー
22020/03/16▲12.93%コロナ・ショック
31929/10/28▲12.82%暗黒の木曜日
41929/10/29▲11.73%暗黒の木曜日
51931/10/05▲10.70%不明
62020/03/12 ▲9.99%コロナ・ショック
71929/11/06 ▲9.90%暗黒の木曜日
81987/10/26 ▲8.04%ブラック・マンデー
92008/10/15 ▲7.87%リーマン・ショック
102020/03/09 ▲7.79%コロナ・ショック
112008/12/01 ▲7.70%リーマン・ショック
122008/10/09 ▲7.33%リーマン・ショック
131997/10/27 ▲7.18%不明
142001/09/17 ▲7.13%ITバブル崩壊+同時多発テロ
152008/09/29 ▲6.98%リーマン・ショック
161989/10/13 ▲6.91%不明
172020/06/11 ▲6.90%コロナ・ショック
181988/01/08 ▲6.85%不明
191998/08/31 ▲6.37%不明
202020/03/18 ▲6.30%コロナ・ショック

このDataについて、先ず申し上げなければいけないことがあります。それは弊店の保有 しているDataは1980年からで、1929年と1931年のDataはネット検索で取得しました。つま り、凡そ50年間のDataが欠落しているので、空白期間も調べれば、もっと違ったランキング になると思います。更に、「暗黒の木曜日」は1929/10/24の株式暴落が端緒です。当然、 同日は上記ランキングに入っていなければいけない筈。しかし、同日の下落率はいくら検索 しても、分かりませんでした。

元Dataの問題はありますが、10月は上記ランキングに9回も入っています。仮に「暗黒 の木曜日」と「リーマン・ショック」を除いても5回です。平均的な出現率は20/12≒1.67 回ですので、異常に多い訳です。この様な状況を「統計的に有意」と言います。分かり易 く言えば、偶然には起こり得ないという意味です。何か米国株式市場に構造的要因があっ て、10月に暴落が起こり易いのでしょうか?



日本株のアノマリー

掉尾の一振(とうびのいっしん)

大納会を間近に控えた残り3営業日辺りから急に市場全体が上昇する現象のことで、捕 まえた魚が最後の力を振り絞って尾を振る形に上昇の様子が似ていることから、「掉尾の 一振」と言います。この現象の起きる理由は3つ考えられます。

  1. 年末の成績を良く見せたいファンドのお化粧買い
  2. 信用取引の金利は決済日からつく
  3. 昔は初商いのとき、御祝儀商いがあった

理由1は今でも行われているようです。しかし、大規模ではないので、市場全体を 押し上げる程の力はないと思います。

理由2は少し説明が必要です。昔は株をやっていると言えば、中小企業のオーナーでした。 そして、今は大納会が12/30ですが、以前は12/28でした。偶然12/28が日曜日だと、 なんと1/4も日曜日なのです。従って、この場合8連休になってしまうのです。しかも、 この時代の金利は銀行定期でも4%位はついていたので、信用取引の金利は7~8%位でした。 中小企業のオーナーは金利にとても敏感で、決済日は年明けですので、その分金利が得すると考えて、 大納会直前に買いを入れる方はかなり多かった様です。勿論、理由3があることが前提ですが。

理由3の御祝儀商いですが、必ず買いから入ります。その時代は空売りで儲けるなど罰当り とされていました。それにしても、古き良き時代と言えばそれまでですが、上がる確信がなくても、 御祝儀商いに付き合ってくださる豪気なお客様が随分いらっしゃいました。

残念ながら、今では、株式の対面営業はネット証券に取って代わられ、理由2と3はもう 起こりません。従って、「掉尾の一振」は死語となりつつあります。



節分天井、彼岸底

節分は2/2~4位で、彼岸とは春分の日ですので、3/20~23位の日付です。意味するところは、 株価は2月始めに小天井をつけ1ヶ月半の調整を経て、再上昇するということです。 何故、そうなるのか、理由は以下の4点です。

  1. 新年の期待から新春相場
  2. 確定申告と納税期限
  3. 3月末の権利取り
  4. 4月(新年度入り)の年金の買い

理由1はバブル崩壊以前の話ですが、長期的には株は上がるものだと信じて疑わない人 が殆どでした。それで、新年の期待から新春相場は大相場にこそなりませんが、そこそこ 堅調でした。

理由2は、中小企業のオーナーにとって、申告は一大イベントで、納税資金を手当する ために株を売却する方も少なくありませんでした。売却は兎も角、譬え資金に余裕があっても 納税額が確定するまでは、新規買付をストップされる方が殆どでした。

理由3は今でも有効ですが、特に株式の無償交付(株式分割)を有難がる投資家が殆どで した。権利落ちすれば、実は儲かっている訳ではないのですが。ただ、理由4の存在は大き かったと思います。

理由4はバブル崩壊以後も暫く有効でした。というのは、団塊の世代が年金を拠出する 側で、毎年巨額の資金が年金基金に流入し、4月はその買いが毎年見込めました。よって、 かつては4月相場は毎年堅調でした。団塊の世代は1947~49年生まれですので、彼らが60歳 で定年退職すると考えれば、2007年で潮目が変わっている訳です。


結論として、バブル崩壊以前、節分天井は兎も角、彼岸辺りを底に4月は高いというの は鉄板でしたが、今は時とともに風化してしまったようです。



Sell in July

実は、この項目が本ページの主題です。「Sell in July」は、まだアノマリーとして確 立していません。遠くない将来、アノマリーになるであろうと思われる事象です。「7月に なったら、売れ」という意味ですが、その理由はインデックス型ファンドの決算日が7/8~9 に集中するからです。それが何故、売りにつながるのかと言えば、インデックス型ファンド の配当金の処理方法についてご説明する必要があります。上場企業は主に3月末決算なので、 それを想定して以下の日程をご覧下さい。

      3月末 権利落ち、配当落ち分先物買付
      5月  株主総会(配当金決定)
      6月頃 配当金支払い
      7月  ファンド決算、ファンド分配金分先物売付

つまり、ファンドは未収金として配当金分を3月末に買付て、7月に売るという二度手間を している訳です。何故そんな面倒なことをしているかと言えば、日本取引所グループの説明 によれば、「基準価額と指数の連動を高める」ためとのことです。

日本取引所グループの説明を引用しますと、

『ファンドに資産計上された未収配当額相当分を再投資しない場合、一口あたりの 基準価額(インディカティブNAV)と指数の乖離が広がっていく一方となりますので、 連動を高めるために未収配当額相当分を再投資することは合理的と言えます。また、 未収配当額相当分は先物に再投資することが一般的です。未収配当額相当分を先物に 再投資して、一口あたりの基準価額と指数の連動を高めるようにしています。』

ということですが、そもそもこの配当金の処理方法は「基準価額と指数の連動を高め」 ているのでしょうか?株式が配当落ちしたとき、先物を買付ると、その分基準価額は 指数より上振れし、その上振れ分を解消するためにファンド決算日に先物の売付ている様にも 思えますが…とすれば、最も根本的な問題として、ファンドは余計な事していると 弊店には思えます。それ以外にも様々な問題点があり、以下に記述します。

  1. 株主総会で決定していない配当予定金を未収配当金として計上するのは、法律的に疑義がある。
  2. 配当金の帰属者は権利付き最終売買日のファンド保有者であるべきですが、配当金相当額の 分配金はファンドの決算日保有者に支払われている。
  3. 再投資の際、不自然な株価上昇要因となり、且つ決算日において不自然な株価下落要因となる。 この騰落は既に、マーケットインパクトとしては無視できない存在になっておりますが、 今後もっと拡大する可能性が高い。
  4. ファンド決算日が7/8~9というタイミングが微妙。日経225オプションや日経225mini等の マイナーSQ直前になるからです。

問題1については、先ず、配当金は利益処分ですので、株主総会決定事項です。 従来は会社案が否決されることはありませんでした。昨今はアクティビスト等によって 会社案配当金が否決される可能性もあります。 この場合、会社案より増配減配いずれもあり得ると思います。増配はありがちな要求です ので説明はいらないでしょう。減配については、従来日本企業は安定配当を是とする企業 が多く、当期利益が赤字でも継続配当する企業は少なくありませんでした。昨今はその様 な企業は減って来ていますが、一部に旧態依然とした企業もあり、その様な場合、アクティビスト としては配当するより、その原資を成長戦略に使うよう会社案を否決する可能性も 出て来ています。要は微々たる配当などなくても株価が上がればいい訳で、その方が 株主にとってのメリットは大きいからです。

問題2については、投資信託協会としては権利付き最終売買日以降にファンドを買付た方は、 その分高く買付ているので、問題ないと説明されるでしょう。ですが、元々先物を買付ず に配当金は別口座にプールしておいて、それをファンド決算日に権利付き最終売買日の ファンド保有者に支払う方が合理的だと思います。

問題3については、2021/7/6の日経新聞によれば、7/8~9の両日でファンドによる分配金捻出の 売りが現物・先物合わせて8000億円規模で過去最高になるとの記事がありました。折しも、 中国が預金準備率を0.5%の引き下げを検討というニュースが7/8にあり、中国の景気に黄 色信号が点ったとして7/9の日経平均は安値では約700円安となりました。幸い引けには -177円まで戻りましたが、一歩間違えば、暴落の引金になり兼ねませんでした。何処までが ファンドの売りの影響か分かりませんが、この下げが理不尽と映ったのは弊店だけではないと 思います。

 根本的に、アクティブ運用とパッシブ運用の運用成果と運用コストを見れば、 パッシブ運用が今後大きく拡大していくのは誰でも想像がつくと思います。加えて、今後 iDeCoや新NISAが拡大していくと、選ばれるのは間違いなくパッシブ運用でしょう。何故な ら、金融知識に乏しい世代が、アクティブ運用の芳しくない運用成果と異様に高い運用コストを 踏まえれば、アクティブ運用を選択するにはハードルが高過ぎます。 2023年末の個人金融資産は2141兆円です。うち、株式投信は211兆円(2024/3)で、誘導の仕方次第では 現在の2倍以上の残高になる可能性もあるでしょう。

問題4については、バブル崩壊時には毎月の様に外資系証券にSQに絡んで、売り仕掛けを され、株価が乱高下しました。最近はその様な仕掛けは減って来ていますが、それでも年 に1回位はそれと思しき状況があります。当然、外資系証券もファンドの決算絡みの売りがある ことは知っていますから、そのタイミングで売り仕掛けをされると、想定以上に下げることも あり得るでしょう。


さて、ではインデックス型ファンドの残高の伸びを見てみましょう。

           インデックス型ファンドの残高           単位:億円
年号日経225型TOPIX型日銀ETF合計総額増減率配当
利回り
概算
配当金
推定
売却額
報道推定先物売却額
2010 22,684 15,729 38,412 1.65 634 575
2011 23,654 15,899 39,552 2.971.93 763 702
2012 32,383 22,553 54,93738.901.96 1,077 992
2013 53,569 40,118 93,68770.541.72 1,611 1,467
2014 64,634 47,992 112,62720.221.67 1,881 1,707
2015 90,644 71,247 161,89043.741.47 2,380 2,130
2016109,049 90,196 75,676 274,92169.821.82 5,004 4,580
2017141,213155,913129,354 426,48155.131.69 7,208 6,551 3,000
2018144,308175,171189,348 508,82819.311.60 8,141 7,358 4,000
2019164,502243,929247,849 656,28028.981.9712,92911,918
2020194,772320,964297,189 812,92523.872.3519,10417,852
2021211,418371,191358,796 941,40615.801.6215,25113,801 8,000
2022191,773358,781365,658 916,212-2.682.1719,88218,47110,000
2023241,927459,252370,4601,071,63816.962.3825,50523,85511,000

ご覧の通り、2022年を除けば、インデックス型ファンドは順調に増えています。その分、 概算配当金も増えています。また昨今、風潮として株主還元策が強化されつつあり、 配当金も増配する企業が増えています。しかも、この2つの流れは当分続きそうです。 凡そですが、先物売却額は年当り1000億円ずつ増えています。 尚、「推定売却額」と「報道推定先物売却額」が大きく違うのは、「推定売却額」は インデックス型ファンド全体で、「報道推定先物売却額」は7/8~9に決算日が到来し、 売却が必要となる金額です。


この様に考えますと、未収配当金を先物で買付るのは、長所無くして、 短所ばかりある様に思えてなりません。しかも、その短所は毎年着実に拡大していますので、 数年後には毎年7月に日本株が下がるというアノマリーが出来てしまうのではと心配しています。




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